急に胸がどきどきしたり、なんとなく胸が変な感じがしたり。
すぐにおさまって1回だけなら、あまり気にならなくても、何度も自覚したり、少し長く続いてきたりすると心配になります。
心臓の診療を専門にしている私でさえ、胸に違和感が出ると、問題ないものだと頭でわかっていても症状が落ち着くまで「ほんとに大丈夫かな」と心のどこかで気になってしまいます。
胸に違和感が出る原因はいろいろとあるのですが、今回は不整脈について考えていきたいと思います。
目次
そもそも不整脈とはなんでしょうか。不整脈は、脈の打ち方がおかしくなることを意味します。脈が不規則になってしまったり、とんでしまったり、速くなってしまったり(頻脈)や遅くなってしまったり(徐脈)、という形で自覚したり、症状はまったく自覚しておらず、心電図をとって初めてわかることもあります。
一定のリズムで脈が出ており、心拍数も正常範囲内。
心拍数が速い(おおむね100回/分以上)ことを頻脈といいます。
心拍数が遅い(おおむね心拍数50回/分以下)ことを徐脈といいます。
本来と違うタイミングで脈が出ると、「ドキッ」とした感じがしたり、その影響で次の脈が遅れることでフラッとしたり、ボーッとする感じが出たりすることがあります。
これを「脈が飛ぶ感じ」「違和感」として感じることもあります。
不整脈は心臓が悪いから起こるのかというと、実は必ずしもそうではありません。
心臓の病気というと、心臓を栄養する血管が詰まる病気である、心筋梗塞や狭心症がありますが、不整脈は血管が詰まるから起きるのだと勘違いされている方もときどきいます。
心筋梗塞や狭心症は心臓の血管の病気であり、一方、不整脈は電気系統の“故障”なので、基本的には別の病気です(心筋梗塞などに合併して不整脈が出ることはありますが)。
不整脈の原因として最も多いのは、加齢に伴うものや、体質的なもの、つまり心臓病には関係しないものです。
年齢のことでいいますと、60歳以上になると不整脈が増えてくるといわれています。また、心不全や心筋症といった心臓の病気も不整脈の発生に影響します。
心臓の病気以外で特にリスクが高いのは、高血圧です。血圧が高くなると心臓の負担が増え、心臓が大きくなる心肥大になって不整脈が起こりやすくなります。
そのほか、服用している薬が不整脈を引き起こす場合もあります。降圧薬や抗うつ薬の一部には、自律神経や心臓の電気の発生に影響する成分を含んでいるものがあります。
また、生活習慣も不整脈の原因となりえます。ストレスや睡眠不足、過労、喫煙、アルコールやコーヒーなどカフェインを多く含む飲料のとりすぎなどは、交感神経を刺激して電気の発生に異常を及ぼし、脈が乱れることがあります。
不整脈が起きているかどうかは、自分の手首で脈をとって調べられます。
人差し指、中指、薬指の3本の腹で手首の親指側を触ります。次にドッ、ドッと、脈を触れるまで徐々に強く押さえます。脈を触れない場合は、少し場所を変えてみるといいでしょう。
不整脈をみるときには10秒ぐらい脈をとってみて、少しおかしいなと思ったら、またさらに10秒間脈をとってみてください。規則性がないと感じたら不整脈の可能性があります。
心拍数は15秒間に何回脈をうっているか数えて、それを4倍した数になります。正常な拍動は、一定のリズムで、1分間に60~100回程度です。
自分で脈をとってみて不整脈かもしれないと感じても、「トン・ト・トン・トン・トン」というような脈がとぶタイプの「期外収縮」であれば問題のないことが多いのですが、脈の乱れのほかに、めまいやだるさ、動悸、息切れ、失神、胸の痛みや不快感などがある人は、詳しく調べる必要があります。
不整脈を心配して受診したときに病院で一般的に行われる検査についてみていきましょう。
4-1. 12誘導心電図
いわゆる通常の心電図です。不整脈を疑って受診した場合、まず最初に行う検査になります。
ただし、不整脈は1日のなかで時々しか出ていないことが多く、不整脈が出ているときに心電図が記録できないと原因がはっきりしないこともしばしばあります。
ここではっきりとした異常が見つからない場合はもう少し詳しい検査が必要になります。
検査時間:数分
4-2. 心臓超音波検査
不整脈を起こす原因が弁膜症や心筋症などの心臓病であることがあるので、超音波で異常がないか評価します。
検査時間:10−20分程度
4-3. ホルター心電図
心電図の電極と記録装置をつけて24時間過ごし、その中で不整脈が出ていないか評価します。
通常の心電図よりも長時間記録を行うことで頻度が低い不整脈が記録できる可能性が上がります。
また症状が出た際にボタンを押して記録することで、症状(動機や息切れ、脈が飛ぶ感じなど)があったときに本当に不整脈が出ているかどうか確認することができます。
寝ている時や、体を動かしている時など、状態の変化による心電図の変化も評価できます。
検査時間:24時間
4-4. トレッドミル運動負荷心電図
血圧計と心電図をつけた状態でベルトコンベアの上を歩くことで心臓に負荷をかけて、安静時にはわからない狭心症や不整脈などを評価する検査です。
検査時間:20−30分
4-5. 電気生理学的検査 (Electrophysiological study: EPS)
通常心臓を専門とする医師が常勤している病院で入院して行う検査になります。
専用の検査室でX線透視を使用し、足の付け根や肩の静脈から心臓内に電極カテーテルと呼ばれる細い管を挿入します。
この電極カテーテルから得られた、心臓内の電気的活動を、専用の心内心電図記録解析装置を使って記録、解析します。
薬剤を使用したり、心臓内に挿入された電極カテーテルから電気刺激を行ったりして、意図的に不整脈を誘発、停止させます。
これによって、その不整脈の原因、発症部位、重症度、薬剤効果などの判定、診断を行います。
検査時間:1、2時間(検査内容によります)
不整脈の治療には、お薬での治療(薬物治療)と薬以外の治療(非薬物治療)があります。
5-1. 薬物治療
不整脈の治療薬にはNaチャンネル遮断薬、Caチャンネル遮断薬、Kチャンネル遮断薬、β受容体遮断薬などがありますが、不整脈の種類や心臓の状態や他の病気の合併の有無などによって使うお薬は様々です。
治療指針に関しては、日本循環器学会が「不整脈薬物治療に関するガイドライン(2009年度改訂版)」を公開しています。
5-2. 非薬物治療
お薬以外の治療法には、カテーテルアブレーション(不整脈が出る電気回路をカテーテルで焼灼して出ないようにする治療)、植え込み型心臓電気デバイス(ペースメーカーや植え込み型除細動器)、不整脈外科手術などがあります。
治療指針に関しては、日本循環器学会が「不整脈非薬物治療に関するガイドライン(2018年度改訂版)」を公開しています。
6-1. ストレス
不整脈の中には、原因がはっきりしないものも少なくありません。
とくに中高年になると、加齢に伴う不整脈が増え、病院で検査をしても、原因を特定しにくいケースが多くみられます。
こうした原因不明の不整脈には、実はストレスが誘因になっているケースがあります。
なぜストレスによって、不整脈が起こるのでしょうか。
心臓のリズムをコントロールしているのは交感神経です。
例えば緊張したり興奮したりすると、脈が速くなります。それは交感神経が心臓の拍動を速め、血液を大量に送り出すためです。
ところが自律神経の一つである交感神経は、ストレスの影響を受けやすい面があります。適度のストレスは交感神経を刺激し、「やる気」を起こします。
しかし、強いストレスがかかったり、長期間にわたるストレスがかかったりする、交感神経のコントロールがうまくいかなくなり、心臓のリズムに乱れが生じやすくなるのです。
こうした不整脈の多くは、心臓病などの重大な病気とは関係ないので、命の危険が出るようなことはありません。しかし、ストレスによる交感神経の緊張状態が続くと、免疫力が低下し、体調をくずしやすくなります。
また、不整脈を誘発するストレスは、精神的なものに限りません。
忙しさによる疲労や睡眠不足、食生活の乱れなども、からだには大きなストレスとなります。
軽い不整脈を繰り返すような場合には、からだがストレスを感じて注意信号を発している可能性があります。
これらを見直すことで不整脈がなくなることもあります。
6-2. 飲酒
アルコールが期外収縮や心房細動などの頻脈性不整脈のリスクを高めることは、よく知られています。アルコールによる不整脈は大量飲酒後に起こりやすく、交感神経活動の活性化や電解質異常が原因として考えられます。
6-3. 喫煙
喫煙は、心房細動など一部の不整脈ではリスクを上げることが報告されています。また、喫煙は狭心症や心筋梗塞のリスクを数倍に上げ、結果として不整脈を起こす心臓病の素因になりえます。
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