【循環器専門医が解説】心房細動の治療|抗凝固薬(DOAC)・薬による脈の調節・カテーテルアブレーション
心房細動は、脈が不規則になる代表的な不整脈です。治療が必要となる不整脈のなかで、最もよくみられるもののひとつです。加齢とともに発症頻度が高くなることが知られていることから高齢化が進む中でますます重要性が高まっています。
脳梗塞の原因になることが最大の問題です。
心房細動の治療において特に重要なのは、以下の3点です。
- 脳梗塞を予防すること
- 速すぎる脈をコントロールすること
- 必要に応じて正常な脈(洞調律)に戻し、心房細動を起こりにくくすること
以前は薬による治療が中心でしたが、近年は心房細動の原因となる異常な電気信号を遮断するカテーテルアブレーションの治療成績が向上し、心房細動と診断されて比較的早い段階から「正常な脈を維持する治療」を検討することも増えてきました。
この記事では、2024年に改訂された日本循環器学会・日本不整脈心電学会のガイドラインの内容もふまえて、現在の心房細動治療についてわかりやすく解説します。
心房細動とは?
正常な心臓では、右心房にある「洞結節」という場所から規則正しく電気信号が発生し、一定のリズムで心臓が動いています。
心房細動になると、心房の中で電気信号が非常に速く、不規則に発生するようになります。その結果、心房は規則正しく収縮できず、細かく震えているような状態になります。
さらに、その不規則な電気信号の一部が心室へ伝わるため、脈も「バラバラ」になります。「脈を測ってみたら間隔がバラバラだった」という場合には、心房細動が隠れていることがあります。
心房細動は年齢とともに増える
心房細動は年齢とともに増えることが知られています。日本の調査では、80歳以上で心房細動がみられる割合は男性4.4%、女性2.2%と報告されています。
日本では2050年には心房細動の患者さんが約103万人、人口の約1.1%になると予測されています。
一方、心房細動は発作的に起こったり、自覚症状がまったくなかったりすることもあります。そのため、実際には診断されていない心房細動がさらに多く存在すると考えられています。
心房細動の何が問題なの?
心房細動で問題になるのは、大きく3つあります。
① 脳梗塞
最も注意しなければならない合併症のひとつが脳梗塞です。
心房細動になると心房が規則正しく収縮できなくなり、特に左心房の「左心耳」と呼ばれる部分で血液がよどみやすくなります。そこで血栓(血のかたまり)ができ、それが血流に乗って脳へ飛んで血管を詰まらせると、脳梗塞を起こします。
心房細動による脳梗塞は比較的大きな脳血管を突然詰まらせることがあり、重症化することも少なくありません。
② 動悸・息切れ・めまい
心房細動になると脈が不規則になったり、速くなりすぎたりするため、以下のような症状が出ることがあります。
- 動悸
- 息切れ
- 胸の違和感
- 疲れやすさ
- めまい、ふらつき
一方で、心房細動があってもほとんど症状を感じない方もいます。
「症状がない=リスクがない」わけではありません。
症状がなくても健康診断や家庭血圧計、スマートウォッチなどをきっかけに、偶然見つかることもあります。
③ 心不全
脈が速い状態が長く続くと、心臓の働きそのものが低下してしまうことがあります。また、もともと心不全がある方では心房細動によって状態が悪化することもあります。
このため心房細動では、脳梗塞だけでなく心臓の機能にも注意が必要です。
心房細動の治療は大きく3つ
現在の心房細動治療は、大きく分けると次の3本柱になります。
- 脳梗塞を防ぐ治療(抗凝固療法)
- 脈が速くなりすぎないようにする治療(心拍数調節)
- 正常な脈を維持する治療(洞調律維持)

さらに、高血圧、肥満、糖尿病、睡眠時無呼吸症候群、飲酒などの背景因子を整えることも非常に重要です。
1. 脳梗塞を防ぐ「抗凝固療法」
抗凝固療法はいわゆる「血をサラサラにする薬」を使って血栓(血の塊)をできにくくする治療です。「血をサラサラにする」というと聞こえはいいですが、裏返すと「出血しやすくする副作用がある」ということでもあります。
そのため心房細動があるすべての方に抗凝固薬が必要というわけではありません。年齢や持病などによって脳梗塞の危険性が違うため、その人のリスクを評価して治療を決めます。
日本ではその代表的な指標としてCHADS₂(チャズ)スコアが用いられています。
| 頭文字 | 英語 | 危険因子 | 点数 |
|---|---|---|---|
| C | Congestive heart failure | 心不全 | 1 |
| H | Hypertension | 高血圧 | 1 |
| A | Age≧75 y | 年齢(75歳以上) | 1 |
| D | Diabetes mellitus | 糖尿病 | 1 |
| S₂ | Stroke/TIA | 脳卒中/一過性脳虚血発作の既往 | 2 |
合計0〜6点で評価し、点数が高くなるほど脳梗塞の危険性が高くなります。

2024年のガイドラインでもCHADS₂スコアの使用が推奨されています。ただし実際の診療では、年齢、腎機能、体重、心房細動の種類、出血リスク、日常生活の自立度なども含めて総合的に判断します。
2024年のガイドラインでは、日本人のデータから作られたHELT-E₂S₂(ヘルト・イーツー・エスツー)スコアも新たに示されました。75歳以上、高血圧、脳卒中の既往に加えて、低体重や持続性・永続性心房細動なども評価する方法です。ただし、何点以上で抗凝固薬を開始するかはまだ確立しておらず、現在もCHADS₂スコアを基本としながら、ほかの危険因子を含めて総合的に判断します。
ワーファリンからDOACへ
かつて心房細動の抗凝固療法といえばワーファリンが中心でしたが、現在では多くの患者さんでDOAC(直接経口抗凝固薬)が使用されています。
- ワーファリンの特徴:効果の個人差や食事の影響(納豆など)があり、定期的な採血による用量調整が必要
- DOACの特徴:効果が比較的安定しており、用量調整のための頻繁な採血は原則不要。食事の影響を受けにくく、ワーファリンと比べて頭蓋内出血が少ない
※機械弁置換後の方や中等度以上の僧帽弁狭窄症がある方では、DOACではなくワーファリンを使用します。すべての患者さんをDOACに変更できるわけではありません。
現在使われている4つのDOAC
| 一般名 | 商品名 | 標準的な服用方法 |
| ダビガトラン | プラザキサ | 1日2回 |
| リバーロキサバン | イグザレルト | 1日1回 |
| アピキサバン | エリキュース | 1日2回 |
| エドキサバン | リクシアナ | 1日1回 |
どのDOACが最適かは、年齢、体重、腎機能、出血リスク、併用している薬、生活スタイルなどによって決定します。
同じ薬でも条件によって用量を減らす必要があるため、処方された量を正しく服用することが大切です。
【注意】
抗凝固薬は「出血が怖いから」と自己判断で量を減らしたり中止したりすると、脳梗塞のリスクが跳ね上がります。絶対に勝手な中断はしないでください。
2. 脈をゆっくりにする「心拍数調節療法」
心房細動そのものが続いていても、脈拍が速くなりすぎないように調整する治療を心拍数調節療法(レートコントロール)といいます。
主に使われる薬には、β遮断薬、非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬、ジギタリス製剤などがあります。
β遮断薬
β遮断薬は、交感神経の刺激を抑えて脈をゆっくりにする薬です。
ビソプロロール(メインテート)などが代表的で、心房細動の心拍数調節によく用いられます。
効きすぎると脈が遅くなりすぎたり、血圧が下がったり、めまいやふらつきが出たりすることがあるため、年齢、体格などを見ながら少量から調整します。
非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬
ベラパミル(ワソラン)やジルチアゼム(ヘルベッサー)にも心拍数を抑える作用があります。
一方で心臓の収縮力を弱める作用があるため、心臓の収縮機能が低下した心不全では使用しません。
ジギタリス製剤
ジギタリス製剤にも心拍数を抑える作用があります。
特に安静時の心拍数を抑える効果がありますが、腎機能などによって血中濃度が上昇することがあるため、患者さんの状態に応じて選択的に使用します。
3. 正常な脈を維持する「洞調律維持療法」
心房細動を止めて、本来の規則正しい脈である「洞調律」を維持する治療を洞調律維持療法(リズムコントロール)といいます。

ここは、2020年当時から考え方が大きく変わってきた部分です。
近年、心房細動と診断されて比較的早い段階から洞調律維持を目指すことで、一部の患者さんでは心血管イベントを減らせる可能性が示されてきました。
そのため現在では、年齢、症状、心房細動になってからの期間、心臓の状態などを考えながら、早い段階から洞調律維持療法を検討することが重要になっています。
抗不整脈薬による治療
薬によって心房細動を起こりにくくする方法があります。
心臓の状態に応じて、
- ピルシカイニド(サンリズム)
- フレカイニド(タンボコール)
- プロパフェノン(プロノン)
- シベンゾリン(シベノール)
などの抗不整脈薬を使用することがあります。
抗不整脈薬は新たな不整脈を引き起こしたり、心臓以外の副作用が出たりする可能性もあるため、心臓の構造や機能、腎機能、他の併用薬などを考慮して適切な薬を選択します。
カテーテルアブレーションの役割が拡大
近年、心房細動治療の中で特に大きく変化しているのがカテーテルアブレーションです。
カテーテルアブレーションとは、血管からカテーテルを心臓まで進め、心房細動の原因となる異常な電気信号を遮断する治療です。

心房細動では肺静脈周辺から異常な電気信号が出ることが多いため、その電気信号が心房へ伝わらないようにする「肺静脈隔離」が治療の基本になります。
2024年のガイドラインでは、症状を繰り返す発作性心房細動に対して、十分な説明を受けたうえで本人が希望する場合には、冷凍バルーンによるカテーテルアブレーションを抗不整脈薬より先に選ぶことも推奨されるようになりました。
もちろん、すべての心房細動患者さんにアブレーションが必要というわけではありません。
心房細動の種類、発症からの期間、年齢、心臓の状態、基礎疾患、患者さんの希望などを考慮して、治療のメリットとリスクを検討します。
アブレーション後も抗凝固薬が必要なことがあります
ここは非常に大切なポイントです。
抗不整脈薬やカテーテルアブレーションによって心房細動が出なくなったとしても、自己判断で抗凝固薬を中止してはいけません。
抗凝固薬を継続するかどうかは、単に「現在心房細動が出ているかどうか」だけで決まるわけではありません。
年齢、高血圧、糖尿病、脳梗塞の既往など、その患者さん自身がもともと持っている脳梗塞リスクをもとに判断します。
そのため、カテーテルアブレーションが成功して心房細動がみられなくなった場合でも、脳梗塞リスクによっては抗凝固薬を継続することがあります。
薬やアブレーションだけではない|生活習慣の改善も重要
最近の心房細動治療では、心房細動そのものだけを見るのではなく、背景にある病気や生活習慣を一緒に整えることが重視されています。
特に、
- 高血圧
- 糖尿病
- 肥満
- 睡眠時無呼吸症候群
- 過度の飲酒
- 運動不足
- 心不全
などは、心房細動の発症や再発と関係しています。
そのため、こうした要因を適切に治療・改善することは、心房細動の進行や再発を抑え、洞調律を維持しやすくするためにも重要です。
まとめ
- 心房細動では、脳梗塞の予防が非常に重要
- 脳梗塞リスクが高い場合には、DOACなどの抗凝固薬を使用する
- 治療には、脈を抑える心拍数調節と、正常な脈を保つ洞調律維持がある
- 近年は、早い段階からカテーテルアブレーションを検討することも増えている
- 高血圧、肥満、糖尿病、睡眠時無呼吸症候群などの管理も大切
心房細動の治療は、年齢、症状、心臓の状態、腎機能、脳梗塞や出血のリスクなどによって、適切な治療はそれぞれ異なります。
この記事の執筆・監修者

乾 恵輔(いぬい けいすけ) 乾小児科内科医院 院長
【保有資格】
- 日本循環器学会認定 循環器専門医
- 日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医
- 日本内科学会認定 総合内科専門医
【心房細動・循環器外来のご案内】
「脈を測ったら間隔がバラバラだった」
「動悸や息切れが気になる」
「健康診断や家庭血圧計で不整脈を指摘された」
という方へ。
当院では循環器専門医による診察のもと、心電図や心エコー検査を通じて不整脈の有無を確認し、抗凝固療法や心拍数調節、カテーテルアブレーションが必要な場合の専門施設へのご紹介まで、状態に応じた治療のご相談を行っています。
脳梗塞の予防のためにも、脈の異常を指摘された方は自己判断で様子を見ず、早めにご相談ください。
高崎駅西口から車で5分、駐車場も8台ございます。
当日受診も可能ですが、混雑を避けるためWEB事前受付がおすすめです。
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