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「心臓は一生で20億回しか打てない」は本当?脈が速いと寿命は縮む?

2026/09/22
心臓は一生で20億回しか打てないのか、脈が速いと寿命は縮むのかをテーマにしたアイキャッチ画像。大きな心臓のイラストと心電図、考え込む人物、時計をシンプルなベクター調で描いている。

「こんなに脈が速くて、心臓は大丈夫でしょうか?」

外来では、ときどきこのような相談を受けます。心臓は生まれてからほぼ休むことなく動き続けているため、「脈が速い人ほど早く心臓を使い切ってしまうのでは」と心配になるのも無理はありません。

結論から言えば、心臓に「20億回」という使用上限はありません。運動で脈が上がったからといって、その分だけ寿命を使ってしまうわけでもありません。

ただし、安静にしていても脈が速い状態が続くときは、体調や病気を知る手がかりになることがあります。

今回は、「心臓が一生に打てる回数は決まっている」という説について、どこまでが本当で、どこからが誤解なのかを解説します。

目次(押すと目次が出ます)

「心臓は一生で20億回しか打てない」って本当?

日本では、1992年に出版された本川達雄先生の『ゾウの時間 ネズミの時間』などを通じて、動物の体の大きさと時間の流れの違いが広く知られるようになりました。

小さなネズミの心臓は非常に速く動きます。一方、大きなゾウの心臓はゆっくりです。そして大まかには、体の小さな動物ほど心拍数が速く寿命が短い、体の大きな動物ほど心拍数が遅く寿命が長いという傾向があります。

ネズミ・ネコ・ヒト・ゾウの心拍数と寿命を比較した図解。ネズミは心拍数が速く寿命が短く、ゾウは心拍数が遅く寿命が長いという傾向がある一方、ヒトはこの傾向から外れて心拍数の割に寿命が長いことを示している

こうした違いから、心拍数と寿命を掛け合わせると、哺乳類が一生のうちに心臓を動かす回数はある程度近くなるのではないかと考えられてきました。

ただし、その回数は「20億回」と決まっているわけではありません。報告によって数字には幅があり、10億回前後とするものもあります。人間は心拍数の割に寿命が長く、この関係から大きく外れています。

哺乳類の心拍数と寿命の関係を示す散布図。マウス・ハムスター・ラットなどのデータから傾向線が引かれており、人間がその傾向線から大きく外れた位置にあることを示している

つまり「一生20億回」という数字は、心臓に設定された使用回数ではなく、動物の心拍数と寿命の関係を分かりやすく表した説の一つと考えるのが適切です。

人間に「20億回」を当てはめると約54年

仮に平均心拍数を70回/分として、「20億回になったら心臓の寿命を迎える」と考えて計算すると、約54年になります。

心臓に「20億回」の上限がないことを示す図解。心拍数70回/分として計算すると、20億回に達するのは約54年だが、80歳では約29億回、90歳では約33億回に達することをタイムラインで示している

しかし、現在では80歳、90歳まで生きる人も珍しくありません。心拍数70回/分のまま80年間過ごしたとすると、心臓が打つ回数は約29億回、90年間では約33億回です。

もちろん、実際の心拍数は運動、睡眠、体調などによって常に変化しています。それでも、人間の心臓が20億回を超えて動き続けられることは明らかです。

心臓の中に「残りあと3億回です」というカウンターが入っているわけではありません。運動で一時的に心拍数が上がったからといって、寿命をその分だけ使ってしまうこともありません。

では、脈が速くても気にしなくていい?

「20億回で寿命を迎える」という考え方は正しくありません。一方で、安静時の心拍数が高い人ほど、将来の心血管病や死亡のリスクが高い傾向があることは、複数の研究で報告されています。

岩手県大迫町の一般住民を対象とした研究でも、自宅で測定した朝の心拍数が高い人ほど、心血管疾患による死亡が多い傾向が報告されています。

ただし、これは「心拍数が高いことが直接寿命を縮めた」と証明した研究ではありません。心拍数が高い人では、運動不足、喫煙、睡眠不足、ストレス、肥満、糖尿病など、ほかの要因が重なっている可能性があります。

研究で使われる「70回/分以上」といった区切りも、病気か正常かを分ける診断基準ではありません。心拍数は、数字だけでなく、その人の普段の値や症状、背景にある病気と合わせて判断することが大切です。

心拍数は「体の状態を映すメーター」

心拍数は、車のエンジンの回転数のように、体の状態に応じて変化します。

運動中や緊張しているとき、寝不足のとき、コーヒーやお酒を多く飲んだときには自然と上がります。反対に、リラックスしているときや眠っているときには下がります。これは主に自律神経の働きによって調節されています。

そのため、心拍数が高いことは「心臓を使いすぎている」というよりも、そのときの体調や生活習慣を反映していると考えた方が分かりやすいでしょう。

一方、安静にしていても脈が速い状態が続く場合には、貧血、甲状腺機能亢進症、発熱、脱水、不整脈、心不全などが隠れていることがあります。薬の影響で心拍数が上がる場合もあります。不整脈そのものについては、「【循環器専門医が解説】不整脈とは?症状・原因・検査・治療と受診の目安」もあわせてご覧ください。

大切なのは、心拍数だけを見て心配することではなく、なぜその心拍数になっているのかを考えることです。

心拍数は低いほど長生きする?

「心拍数が高い人ほどリスクが高い」と聞くと、薬で脈を下げれば長生きできるのではないかと思うかもしれません。

一部の心不全患者では、病状に応じて心拍数を適切に下げることで、心不全による入院などを減らせることが分かっています。

一方、心不全がなく、心拍数が高いという理由だけで薬を使って数値を下げれば、寿命が延びるとまでは証明されていません。実際、心不全のない安定した冠動脈疾患の患者を対象とした研究では、薬で心拍数を下げても、心血管死や心筋梗塞は減りませんでした。

また、心拍数が低くても、スポーツなどで心臓が鍛えられた結果である場合もあれば、薬の影響や心臓の電気的な異常が関係している場合もあります。

「遅ければ遅いほどよい」のではなく、年齢、体力、症状、病気の有無に合った心拍数であることが重要です。

「脈が速い気がする」ときはどうすればいい?

まずは、運動、入浴、飲食の直後を避け、椅子に座って数分休んでから測ってみましょう。家庭用血圧計を使えば、血圧と一緒に脈拍も確認できます。

成人では、安静時心拍数が100回/分を超えると一般に「頻脈」と呼びます。ただし、100回/分を超えていなくても、普段より明らかに速い状態が続く場合や、脈が不規則な場合には原因を確認した方がよいことがあります。

運動直後、入浴直後、コーヒーを飲んだ直後、緊張しているときなどは心拍数が上がって当然です。一度だけの数字で判断せず、落ち着いた状態で何度か測り、普段の心拍数と比べてみてください。

動悸、息切れ、胸の痛み、めまい、脈が飛ぶ感じなどを伴う場合には、心電図などで確認することをおすすめします。長時間心電図検査については、「24時間では見つからない不整脈も。7日間ホルター心電図『Liz』を導入しました」もご覧ください。

まとめ

「人間の心臓は一生で20億回しか打てない」という説は、動物の心拍数と寿命の関係から生まれた興味深い考え方ですが、文字どおりの意味では正しくありません。

現在では80歳、90歳まで生きる人も多く、その間に心臓は30億回前後、あるいはそれ以上拍動します。運動によって一時的に心拍数が上がっても、その分だけ心臓の寿命を使うわけではありません。適度な運動は、むしろ心臓や血管の健康を保つうえで大切です。

一方、安静時の心拍数は体の状態を知る手がかりになります。大切なのは「あと何回心臓が打てるのか」ではなく、「いつもの自分と比べて脈がどう変化しているか」を見ることです。

たまには血圧と一緒に、自分の脈拍にも目を向けてみてください。

参考文献


この記事の執筆・監修者

高崎市の乾小児科内科医院 院長 乾恵輔

乾 恵輔(いぬい けいすけ) 乾小児科内科医院 院長

【保有資格】

  • 日本循環器学会認定 循環器専門医
  • 日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医
  • 日本内科学会認定 総合内科専門医

院長よりメッセージ: 「脈が速い気がする」というご相談は多いですが、多くは体調や生活習慣を映しているだけです。一方で、繰り返す動悸や脈の乱れは、確認しておいたほうがよいサインのこともあります。気になる方は、遠慮なくご相談ください。


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