血圧の薬、朝と夜どっちに飲むのが正解?
血圧のお薬は「朝に飲んでください」と出ている方が多いと思いますが、
「これってお昼や夜に飲んでもいいのかな?」
と疑問に思ったことはありませんか。
実は一時期、「血圧の薬は夜に飲んだ方がいい」という説がSNSや健康番組などでも話題になったことがあり、患者さんの中にも「夜に飲んだ方が体にいいらしい」というイメージをお持ちの方が一定数いらっしゃるようです。
では、本当にそうなのでしょうか?
今回は、降圧薬を飲む時間について、最近の研究も含めて整理してみたいと思います。
まず知っておきたい、血圧の「1日のリズム」

実は、血圧は一日中ずっと同じではありません。
一般的には、活動している日中は高めになり、眠っている間は10〜20%ほど低下します。そして朝、目覚める前後から再び上昇していきます。
こうした約24時間周期の変化を「概日リズム(サーカディアンリズム)」と呼びます。
なぜ、こんな仕組みがあるのでしょうか。
人間はもともと、明るい昼間に活動して夜に眠る「昼行性」の動物です。
人類が狩猟採集生活をしていた頃を想像すると、昼間は食べ物を探したり、獲物を追いかけたり、時には危険から逃げたりと、体を動かすために多くの血流が必要でした。一方、夜は眠って体を休ませる時間です。
そのため、活動する昼間には血圧を高めに保ち、休息する夜には血圧を下げるというリズムは、ヒトが長い進化の過程で獲得してきた仕組みの一つとも考えられています。
もちろん、現代人の多くは朝から獲物を追いかける生活はしていません。それでも私たちの体には、このリズムが残っています。
実際には、体内時計だけで血圧が決まっているわけではありません。睡眠と覚醒、交感神経、ホルモン、身体活動、姿勢など、さまざまな要素が組み合わさって血圧の1日の変化が作られています。
そして、このリズムには個人差があります。
通常は睡眠中に血圧が下がりますが、中には寝ている間も血圧があまり下がらない「夜間高血圧」の方がいます。また、朝起きる頃に血圧が大きく上昇する「早朝高血圧」の場合もあります。
血圧の1日の変化や、注意が必要なパターンについては、「血圧は1日の中で変化する。危ないパターンは?」もあわせてご覧ください。
寝ている間の血圧はどうやって測る?
ここで、
「寝ている間の血圧なんて、どうやって調べるの?」
と思われるかもしれません。
そこで使われるのが、24時間自由行動下血圧測定(ABPM)という検査です。
腕に小さな血圧計をつけたまま普段通りに生活してもらい、日中だけでなく睡眠中も一定間隔で自動的に血圧を測定します。
これによって、診察室や家庭で測る血圧だけでは分からない、「寝ている間に血圧がちゃんと下がっているか」「明け方から血圧が上がっていないか」といった24時間の血圧の動きを調べることができます。
夜間血圧や血圧の日内変動を詳しく調べる研究では、このABPMがよく使われます。

ただ、研究に協力する患者さんは結構大変です。
自動血圧計って、測るときに腕を結構「ギュー」っと締めてきますよね。
昼間はともかく、夜寝ている間にもこの「ギュー」が来るわけです。人によっては測定のたびに目が覚めてしまうこともあります。
個人的には、血圧に関する論文を読んでいると、ちょっとだけ腕を「ギュー」とされているような気分になります。
夜間や早朝の高血圧にはリスクがある
こうした夜間や早朝の高血圧は、脳卒中や心筋梗塞などの心血管病のリスクとも関係することが知られています。
そこで、非常に自然な疑問が出てきます。
「それなら血圧の薬を夜に飲んで、夜間から早朝の血圧をしっかり抑えた方がいいのでは?」
理屈としては、かなりもっともらしく思えます。
そして、この「降圧薬を飲む時間」に世界的な注目が集まるきっかけとなったのが、2019年に発表された「Hygia Chronotherapy Trial」でした。
「夜に飲んだ方がいい」説はどこから来たのか
2019年に発表されたHygia Chronotherapy Trialは、スペインの高血圧患者約1万9000人を対象に、降圧薬を「起床時」に飲む場合と「就寝前」に飲む場合で、心血管イベントに差があるかを比較した大規模研究です。
中央値6.3年間の追跡の結果、就寝前に服用したグループでは、心血管死・心筋梗塞・脳卒中などを合わせた主要心血管イベントが約45%少ない(HR 0.55)という驚くべき結果が報告されました。
また、就寝前に降圧薬を服用したグループでは、夜間の血圧もより低くなっていました。
この研究をきっかけに、
「血圧の薬は夜に飲んだ方がいいのでは?」
という考え方が世界的に大きな注目を集めることになったのです。
ところが、その後の研究では……
Hygia試験の結果は世界的に大きな注目を集めましたが、一方で、
「薬を飲むタイミングを朝から夜に変えただけで、本当にこんなに大きな差が出るのだろうか?」
という議論も起こりました。
そこで、その後あらためて大規模な研究が行われています。
代表的なのが、2022年に発表されたイギリスのTIME試験です。
この研究では約2万1000人の高血圧患者さんを対象に、降圧薬を朝に飲むグループと夜に飲むグループに分け、平均約5年間追跡しました。
その結果、
心筋梗塞・脳卒中・心血管死などの発生率に、朝と夜で明確な差はありませんでした。
さらに2025年に発表されたカナダのBedMed試験でも、降圧薬を就寝前に服用することで心血管イベントが減少するという効果は確認されませんでした。
つまり、Hygia試験で報告されたような「夜に飲むことで心血管病が大幅に減る」という結果は、その後の大規模研究では再現されなかったのです。
そのため現在では、
「血圧の薬は、みんな夜に飲んだ方がいい」とは言えない
というのが基本的な考え方になっています。
なぜHygia試験だけ異なる結果だったのか?

TIME試験やBedMed試験では、Hygia試験で報告されたような大きな効果は再現されませんでした。
なぜHygia試験だけ心血管イベントが45%も減少したのか、その理由は現在もはっきりしていません。
ただ、実際の血圧の差に比べて効果があまりにも大きいことや、ランダム化の方法、脱落者の扱いなど、研究方法についていくつかの疑問が指摘されています。
またHygia試験では、約1万9000人が負担の大きい48時間ABPMを少なくとも年1回受けていましたが、途中で研究をやめた人や追跡できなくなった人について十分な情報が示されていないことも議論になりました。
研究不正が確認されたわけではありません。
ただ、その後の複数の大規模研究で同じ効果が再現されなかったことから、現在ではHygia試験だけを根拠に「降圧薬は夜に飲んだ方がよい」と考えることは難しくなっています。
日本のガイドラインではどうなっている?
日本高血圧学会の最新ガイドライン「JSH2025」でも、降圧薬を全員一律に就寝前に飲むことは推奨されていません。
むしろ大切なのは、
朝に飲むか夜に飲むかより、24時間を通して血圧をきちんとコントロールすること
です。
現在よく使われているARBやカルシウム拮抗薬などには、1日1回の服用で長時間効果が続く薬が多くあります。
そのため、「朝に飲んだから効かない」「夜に飲んだから効く」というほど単純な話ではありません。
結局、いつ飲むのが正解?
ここが一番大切です。
多くの方にとっての正解は、
「毎日、忘れずに続けられる時間に飲む」
です。
朝食後なら忘れないという方は朝で構いません。
夕食後や就寝前の方が生活リズムに組み込みやすいという方なら、その時間が合っていることもあります。
降圧治療は数日ではなく、何年、場合によっては何十年と続けていくものです。
「朝と夜のどちらが少し有利なのか」を気にするより、飲み忘れずにきちんと続けられることの方がずっと大切です。
ただし「飲む時間」を考えた方がいい人もいます
もちろん、誰でも好きな時間に飲めばいいというわけではありません。
特に服用時間を調整することがあるのは、主に次のような場合です。
- 利尿薬を使っている
- 朝だけ血圧が高い
- 夜も血圧が高い
ここからは、それぞれについて見ていきましょう。
① 利尿薬を飲んでいる方
利尿薬を夜に飲むと、寝てからトイレに行く回数が増えてしまうことがあります。
そのため、基本的には朝〜日中に服用することが多い薬です。
特に高齢の方では、夜間に何度もトイレに起きることが負担になったり、転倒につながったりすることもあるため、服用時間には注意します。
個人的には、よほどの理由がない限り、夜に利尿薬を処方することはほとんどありません。
② 朝だけ血圧が高い方
診察室ではそれほど高くないのに、
「家で測ると朝だけ血圧が高い」
という方は珍しくありません。
このような場合は、まず現在使っている薬が翌朝まで十分に効いているかを確認します。
そのうえで必要に応じて、より長く効く薬に変更したり、薬を追加したり、朝と夕方に分けたり、服用時間を調整したりします。
「朝の血圧が高いから、とりあえず薬を夜に移せばいい」というほど単純ではありません。
③ 夜も血圧が高い方
通常、血圧は睡眠中にはある程度下がりますが、寝ている間も血圧が十分に下がらない方もいます。
睡眠時無呼吸症候群や糖尿病、腎臓病などが背景にある場合もあり、生活背景や持病なども確認しながら治療を考えていきます。
睡眠時無呼吸症候群と高血圧の関係については、「睡眠時無呼吸症候群と高血圧の「密」な関係」で詳しく解説しています。
この場合も、単純に薬を夜に移すだけではなく、薬の種類や量、服用時間などを個別に調整します。
「朝か夜か」より、家庭血圧を見て決める
降圧薬を飲む時間について考えるとき、実際の診療でとても役に立つのが家庭血圧です。
一口に「血圧が高い」といっても、
- 朝は高いけれど夜は正常
- 朝も夜も高い
- 夜になると血圧が下がりすぎる
- 診察室では正常なのに自宅では高い
では、治療の考え方が変わってきます。
ですから、
「何時に薬を飲めばいいですか?」
という質問に対する本当の答えは、
「まず、あなたの血圧がいつ高いのかを見てみましょう」
なのかもしれません。
当院でも、血圧のご相談ではじめて受診された患者さんには血圧手帳をお渡しし、可能な範囲で朝と夜の家庭血圧を記録していただくようお願いしています。
家庭血圧を測る意義については、「【高血圧】どうして家庭でも血圧を測る必要があるのか」もご参照ください。
毎日家庭血圧を測るのはなかなか手間ではありますが、薬の種類や量、服用時間を考えるうえで非常に参考になります。
まとめ
「血圧の薬は朝と夜、どちらに飲むのが正解なのか?」
現在の研究からは、多くの方では朝と夜のどちらかが一律に優れているとは言えません。
大切なのは、24時間を通して血圧を安定させ、毎日忘れずに治療を続けることです。
一方で、早朝や夜間だけ血圧が高い方、利尿薬を使用している方などでは、服用時間を調整した方がよい場合もあります。
まずは朝と夜の家庭血圧を測って、「自分の血圧がいつ高いのか」を確認してみてください。
服用時間が気になる場合には、自己判断で変更せず、家庭血圧の記録を持って主治医に相談していただくのがよいと思います。
高血圧の基準値や治療の考え方全般については、「高血圧とは?基準値・症状・治療と受診の目安を循環器専門医が解説」もあわせてご覧ください。
参考文献
- Hermida RC, et al. Bedtime hypertension treatment improves cardiovascular risk reduction: the Hygia Chronotherapy Trial. Eur Heart J. 2020;41(48):4565-4576.
- Mackenzie IS, et al. Cardiovascular outcomes in adults with hypertension with evening versus morning dosing of usual antihypertensives in the UK (TIME study). Lancet. 2022.
- Garrison SR, et al. Antihypertensive Medication Timing and Cardiovascular Events and Death: The BedMed Randomized Clinical Trial. JAMA. 2025.
この記事の執筆・監修者

乾 恵輔(いぬい けいすけ) 乾小児科内科医院 院長
【保有資格】
- 日本循環器学会認定 循環器専門医
- 日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医
- 日本内科学会認定 総合内科専門医
院長よりメッセージ: 「薬は何時に飲めばいいですか?」というご質問はとても多く、実際に一時期は「夜に飲んだ方がいい」という説も話題になりました。ただ研究が積み重なるにつれて、答えはもう少しシンプルだと分かってきています。大切なのは時間そのものより、続けやすさとご自身の血圧のパターンです。私は循環器および糖尿病の専門医として、家庭血圧の記録をもとに、お一人お一人に合った薬の選び方・飲み方をご提案しています。
【高血圧・循環器外来のご案内】
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