糖尿病と心臓病の関係は?心筋梗塞・心不全のリスクと予防を専門医が解説
「糖尿病があると、心臓病になりやすいのでしょうか」。糖尿病で通院していると、心臓への影響が気になることもあると思います。
糖尿病があると、心筋梗塞や心不全のリスクが高くなります。予防のために大切なのは、血糖だけでなく、血圧・コレステロール・喫煙なども合わせて管理することです。
この記事では、糖尿病と心臓病の関係、気づいておきたい症状、生活や治療でできる予防について解説します。
目次(押すと目次が出ます)
心筋梗塞と心不全はどう違う?
心筋梗塞と心不全は、どちらも糖尿病と深い関係がありますが、意味は異なります。
| 病気 | どのような状態? |
|---|---|
| 心筋梗塞 | 心臓の筋肉に血液を送る血管が詰まることで十分な酸素や栄養が心臓に届かなくなり、心臓の筋肉が傷む病気 |
| 心不全 | 心臓の働きが悪くなり、全身への血液の供給が不十分になったり、肺や体に水分がたまったりして、息切れやむくみなどが現れる状態 |
なお心筋梗塞によって心臓の筋肉が傷み、その結果として心不全になることもあります。
糖尿病では、なぜ心臓病のリスクが高くなる?

動脈硬化が進み、心筋梗塞が起こりやすくなる
血管の内側には、血管のしなやかさを保ち、血液を固まりにくくする働きがあります。しかし、血糖が高い状態が続くと、この働きが損なわれ、動脈硬化が進みやすくなります。動脈硬化とは、血管の壁にコレステロールなどがたまり、壁が厚く、硬くなる変化を指します。
心臓の筋肉に酸素や栄養を届ける血管を「冠動脈」といいます。動脈硬化の進行によりこの血管が狭くなって血流が不足すると狭心症に、血管が詰まって血流が途絶えると心筋梗塞を起こします。
糖尿病は血管病のリスクとして知られていますが、日本人を約13年間追跡した研究では、糖尿病のある集団では、正常な血糖の集団と比べて、心筋梗塞などの冠動脈疾患を発症するリスクが約3倍という報告もあります。
心臓の筋肉や腎臓の変化が、心不全につながる
糖尿病では、心臓の筋肉が硬くなり、十分に広がって血液を受け取りにくくなることがあります。そのため、心筋梗塞を起こしていなくても、心不全を起こす場合があります。
また、糖尿病に伴って腎臓の働きが低下すると、塩分や水分が体にたまりやすくなり、心臓への負担が増します。心臓と腎臓の状態を合わせて確認するのは、このためです。
胸の違和感・息切れ・むくみが出たら
胸が強く痛まなくても、早めに相談したい変化
狭心症や心筋梗塞では、胸の痛みや締めつけられる感じが代表的な症状です。ただし、糖尿病による神経障害などの影響で、痛みが目立たないこともあります。
「歩くと胸が重い」「胸が苦しい・圧迫される」「動いたときにみぞおちが不快になる」「以前より息が切れる」といった症状が新しく出たり、繰り返したりする場合は、次の定期受診を待たずに相談してください。症状が出る場面、続く時間、休むと改善するかを伝えると、診断の手がかりになります。
息切れ・むくみ・急な体重増加にも注意する
心不全では、いつも上れていた階段で息が切れる、足がむくんで靴がきつくなる、食事量は変わらないのに数日で体重が増える、といった変化がみられます。
これらの原因は心不全に限りませんが、新しく出てきたときや悪化しているときは、早めに受診しましょう。心不全の悪化を防ぐ生活については、別記事「心不全は繰り返す?」でも解説しています。
心臓を守るための生活と数値の管理

血糖・血圧・コレステロールを一緒に確認する
血糖を良好に保つことは、糖尿病の合併症予防の基本です。早い時期から血糖を管理することが、その後の心筋梗塞などのリスク低下につながった研究もあります。
HbA1cは、過去1〜2か月ほどの血糖の状態を反映する検査値です。一般的な合併症予防の目標は7.0%未満ですが、年齢、合併症、低血糖の起こりやすさなどに合わせて個別に決めます。数値を低くすることだけを優先せず、安全に続けられる目標を考えます。
血糖が管理目標に達していても、血圧やLDLコレステロールの管理は必要です。特に、狭心症や心筋梗塞を経験した方では、再発予防のためにLDLコレステロールをより低い値に保つ治療が重要になります。
実際に、血糖だけでなく、血圧や脂質、生活習慣もまとめて管理することで、心臓や血管の病気を減らせることが、研究で示されています。
血圧やコレステロールの薬にも、それぞれ心臓や血管を守る役割があります。診察では、自分の目標値と、薬を使う目的を確認しておきましょう。血圧については「高血圧とは?」、コレステロールについては「コレステロールが高いと言われたら」で詳しく解説しています。
食事は、糖質だけでなく塩分や脂肪にも気を配る
食事では、食べる量を整えるとともに、塩分や脂肪のとり方にも目を向けます。
例えば、麺類の汁を残す、肉の脂身やバターに多い脂肪をとりすぎないようにする、魚や大豆製品も取り入れる、といった工夫です。野菜や豆類などの食物繊維を取り入れ、甘い飲み物は水やお茶に替えることも役立ちます。
糖質を減らす代わりに、脂身の多い肉や塩分の多い加工食品が増えていないかも確認しましょう。腎臓病がある場合は、その状態に合わせて食事内容を調整します。
無理のない運動と禁煙を続ける
運動は血糖や体重の管理に役立ちます。まずは10分程度の散歩や、座りっぱなしの時間を減らすことから始めましょう。運動できる状態であれば、少し息が弾む程度のウォーキングなどを、週に合計150分以上行うことがひとつの目安です。
胸の症状や息切れがある方、心臓病や糖尿病の合併症がある方は、始める前に運動の内容や強さを主治医と相談してください。インスリンなどを使っている方は、運動による低血糖にも注意が必要です。運動の進め方は、別記事「糖尿病の運動療法」で詳しく解説しています。
たばこを吸っている方は、禁煙も大切な予防策です。自力では難しい場合も、診察時に相談してください。
糖尿病の薬は、心臓や腎臓への効果も考えて選ぶ
2型糖尿病の薬には、血糖を下げる効果に加え、心臓や腎臓への効果を考えて選ぶ薬があります。例えば、SGLT2阻害薬の一部は慢性心不全や慢性腎臓病の治療にも使われ、心不全による入院を減らす効果が示されています。心血管疾患のある2型糖尿病の方を対象に、心血管の病気による死亡が減った研究もあります。SGLT2阻害薬については、別記事「SGLT2阻害薬とは?」で詳しく解説しています。
GLP-1受容体作動薬の一部でも、心血管疾患のリスクが高い2型糖尿病の方で、心筋梗塞や脳卒中などを合わせた発症リスクを下げる効果が示されています。
薬は、心臓病や腎臓病の有無、腎機能、体格、副作用、費用などを踏まえて選びます。SGLT2阻害薬では脱水や性器感染症、GLP-1受容体作動薬では吐き気などの消化器症状に注意します。血糖が目標に達していても、心臓や腎臓の状態を理由に薬の追加や変更を提案することがあります。
症状がなくても、心臓の検査は必要?
糖尿病では、症状が出る前の心臓への負担を、血液検査で調べることがあります。検査の名前は「BNP」または「NT-proBNP」です。
2026年の日本循環器学会・日本糖尿病学会による共同提言では、症状のない糖尿病の方にもこれらの検査を行い、正常でも年1回確認することが推奨されています。これは、息切れやむくみなどの症状が出る前に、心臓の働きに異常が出始めていないか(心不全の前段階)を確認し、予防や治療につなげるためです。
検査値が高い場合などは、心エコーで心臓の形や動き、血液を受け入れる働きを詳しく確認します。ただし、腎機能や不整脈などでも値が変わり、肥満がある方では心不全でも低い値になることがあります。検査値だけで判断せず、症状や診察、心エコーなどを合わせて評価します。
胸の症状がある場合や、心電図などに異常がある場合には、冠動脈の病気を調べる検査も検討します。必要な検査と受ける時期は、診察で相談しましょう。血管の硬さや動脈硬化の程度を調べる検査については、別記事「血圧脈波検査とは?」で解説しています。
当院では、症状や検査結果、心臓病のリスクに応じて、BNPなどの血液検査や心エコーを行っています。
参考文献・資料
- 日本循環器学会・日本糖尿病学会「糖代謝異常者における循環器病の診断・予防・治療に関するコンセンサスステートメント(2026年改訂版)」
- 国立循環器病研究センター「心不全」
- 国立循環器病研究センター「虚血性心疾患ってどんな病気?」
- Saito I, et al. Diabetes and the risk of coronary heart disease in the general Japanese population: the Japan Public Health Center-based prospective (JPHC) study. Atherosclerosis. 2011;216(1):187–191.
- Holman RR, et al. 10-year follow-up of intensive glucose control in type 2 diabetes. N Engl J Med. 2008;359(15):1577–1589.
- 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024(第2章・第5章・第12章など)」
- 国立循環器病研究センター「食事療法について」
- 糖尿病情報センター「糖尿病の運動のはなし」
この記事の執筆・監修者

乾 恵輔(いぬい けいすけ) 乾小児科内科医院 院長
【保有資格】
- 日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医
- 日本循環器学会認定 循環器専門医
- 日本内科学会認定 総合内科専門医
院長よりメッセージ: 糖尿病の診療では、血糖値だけでなく、心臓や血管の状態にも目を向けることが大切です。胸の違和感や息切れが気になるときは、次の受診を待たずに、気軽にご相談ください。
【糖尿病内科・循環器内科のご案内】
当院では、糖尿病と循環器の両方の専門医資格を持つ院長が糖尿病と心臓・血管の両面から診療しています。血糖値に加え、血圧やコレステロール、腎臓の状態、日常生活での症状を確認し、一人ひとりに合った治療を考えます。受診時には、お薬手帳、健診結果、ご自宅で測った血圧の記録などをお持ちいただくと参考になります。
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